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東京地方裁判所 平成5年(特わ)2560号 判決

本店所在地

東京都八王子市八幡町二番三号

有限会社

プリンス商会

(右代表者代表取締役 楊金火)

国籍等

台湾

住居

東京都八王子市八幡町二番三号

会社役員

楊金火

一九二七年三月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官星景子、弁護人財部實各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社プリンス商会を罰金三〇〇〇万円に、被告人楊金火を懲役一年に処する。

被告人楊金火に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社プリンス商会(以下「被告会社」という)は、東京都八王子市八幡町二番三号に本店を置き、遊技場(パチンコ店)の経営に関する事業等を目的とする資本金六〇〇万円の有限会社であり、被告人楊金火(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、仕入高を水増し計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年一二月七日から平成二年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三五五八万六六六五円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年七月三〇日、東京都八王子市子安町四丁目四番九号所在の所轄八王子税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が一三六五万四九〇九円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三七九万四四〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五九四〇万五六二三円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年七月三一日、前記八王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五九〇〇万八四〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二八二九万七九〇〇円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年七月二九日、前記八王子税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が一〇二二万六〇四五円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四七三四万六九〇〇円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  石岡清孝、武林清海、久恒あき子、能登部重秋及び石岡ヨネ(六通)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の当期売上高調査書、当期商品仕入高調査書、期末商品棚卸高調査書、給料手当調査書、福利厚生費調査書、交際接待費調査書及び交際費の損金不算入額調査書

一  登記官作成の登記簿謄本

一  検察事務官作成の報告書

判示第一及び第二の事実について

一  大蔵事務官作成の雑費調査書

判示第一及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の申告欠損金調査書

判示第二及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の期首商品棚卸高調査書及び事業税認定損調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の役員報酬調査書、地代家賃調査書、水道光熱費調査書、諸会費調査書、雑収入調査書及び支払利息調査書

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(平成六年押第九二号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の消耗品調査書及び繰越欠損金当期控除額調査書

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  石岡佐知の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書及び損金の額に算入した道府県民税利子割調査書

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項(第一の事実の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項(第一の事実の罰金刑の寡額につき、前同)

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、パチンコ店経営等を業とする被告会社の代表取締役である被告人が、内妻や子供の生活費の捻出や簿外資産の蓄積等を目的として脱税を企て、コンピュータープログラムを利用して毎日二〇万円ずつ売上を除外したり、換金用景品の仕入先に仕入額を水増しした納品書・領収書の発行を依頼して仕入額を水増し計上するなどして、被告会社の所得を秘匿し、三事業年度にわたり合計一億二千万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率も一〇〇パーセントである。このような脱税額、ほ脱率、犯行の計画性等のほか、この種事案については一般予防の必要性が高いことにかんがみると、被告人及び被告会社の刑事責任には軽視を許され得ないものがあるといわざるをえない。

他方、被告人は、国税当局の査察を受けて以来、事実を認めて調査及び捜査に協力し、かつ税理士等に相談して二度と同種事犯を犯さないように努めており、当公判廷において真摯な反省の態度を示していること、被告会社は、国税当局の指導に従い、本件三事業年度分の法人税の本税を完納し、重加算税等の付帯税を分割納付中であること、被告人には前科前歴がないことなど、被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金四〇〇〇万円、被告人・懲役一年)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

別紙2 修正損益計算書

〈省略〉

別紙3 修正損益計算書

〈省略〉

別紙4 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙5 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙6 ほ脱税額計算書

〈省略〉

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